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大阪地方裁判所 平成10年(行ウ)52号 判決

原告

石﨑善隆

被告

(美原町長) 高岡寛

(美原町総務部秘書課長) 安形好範

右被告ら訴訟代理人弁護士

細見文博

右被告ら訴訟参加人

美原町長 高岡寛

右訴訟代理人弁護士

筒井豊

右指定代理人

土井隆史

佐藤裕

主文

一  被告高岡寛は、美原町に対し、九九万一七三四円及びこれに対する平成一一年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告高岡寛に対するその余の請求及び被告安形好範に対する請求を棄却する。

三  原告に生じた訴訟費用の四分の三及び被告安形好範に生じた訴訟費用を原告の負担とし、原告に生じたその余の訴訟費用及び被告高岡寛に生じた訴訟費用を同被告の負担とする。

事実及び理由

第三 当裁判所の判断

一  条例が違法であることに基づく財務会計上の行為の違法性

原告は、本件条例の税務手当、滞納徴収手当、保険手当、技術手当及び用地取得業務従事手当の各規定が法二〇四条二項に違反するから、違法な条例に基づいて何ら是正措置を講じないで行われた財務会計上の行為も違法であると主張しているので、この点につき判断する。

1  法二〇四条二項は、普通地方公共団体は条例で職員に対して特殊勤務手当を支給することができる旨定めているところ、同項にいう特殊勤務手当の対象となる特殊勤務とは、地方公務員法二四条三項、給与法一三条一項の規定に照らすと、著しく危険、不快、不健康又は困難な勤務その他の著しく特殊な勤務であって、給与上特別の考慮を必要とし、かつ、その特殊性を俸給で考慮することが適当でないものをいうと解するのが相当である。もっとも、どのような勤務が特殊勤務に当たるかについては、全国一律にこれを定めることは必ずしも適当ではないから、職員の勤務の内容や給与制度等の地域の実情に応じて条例でこれを定めることとしたものと解される。したがって、特殊勤務手当の種類、内容、手当の額、支給方法等については、法二〇四条二項の趣旨に反しない範囲で議会に広範な裁量が与えられているというべきである。

2  また、仮に特殊勤務手当に関する条例の定めが法二〇四条二項等の法令に違反すると考えられる場合であっても、地方公共団体の長としては、当該条例について再議に付して議会の再考を促し、議会が再度同様の議決をした場合には自治大臣又は都道府県知事に対して審査を申し立て、右申立てに対する裁定に不服のあるときは裁判所に出訴してその是正を図るべきものとされており(法一七六条)、長自らの判断で条例を無効として特殊勤務手当を支出しない措置を執ることは原則として許されないと解される。このような地方公共団体の議会と長との関係に照らすと、特殊勤務手当に関する条例の内容が著しく合理性を欠き、そのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵の存する場合でない限り、長及び専決権限を有する職員は、条例に従って特殊勤務手当の支出を行うべき義務があり、条例に従って特殊勤務手当を支出したことにつき財務会計上の責任を問われることはないというべきである。

3  以上を前提に、本件条例について検討する。

(一)  税務手当

税務手当〈1〉の支給対象となる勤務は、町税の徴収及び賦課・徴収に関する調査を主とする事務であると解されるが、町税の徴収については、地方税法のみならず、所得税法、法人税法、国税徴収法等の専門的知識が要求されること、町税の賦課・徴収に関する調査は、納税義務者の課税物件、資産、所得、生活の状況等を把握するための事務であり、賦課又は徴収事務自体と密接に関連していることから、調査事務も含めて勤務の特殊性を認めることができる。

また、税務手当〈2〉の支給対象となる勤務は、町税の賦課又は徴収に関する事務のうち、徴収及び調査を主とする事務以外の事務であると解されるが、前記のような専門的知識が要求される点においては税務手当〈1〉と変わりがないものと認められる。

また、これらの事務は、相互に関連しかつ継続的に行われるものであると認められるから、税務手当を月額支給と規定することも合理性を有するというべきである。

そうすると、税務手当の規定の内容が著しく合理性を欠き、そのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存するものとは解し得ない。

(二)  滞納徴収手当

滞納徴収手当の支給対象となる勤務は、町税、国民健康保険料及び下水道受益者負担金の滞納徴収事務であるが、町税の徴収事務に関しては税務手当が支給されることから、特殊勤務手当が重複して支給される場合には一方の手当のみを支給する措置等がなされている人事院規則九―三〇第三二条との均衡を欠き、著しく合理性を欠くのではないかが問題となる。

この点につき、〔証拠略〕によれば、税務手当の支給対象となる勤務は現年度において課税された町税の徴収事務であるのに対し、滞納徴収手当の支給対象事務は過去の年度に課税された町税の滞納繰越分の徴収事務であり、両手当の支給対象勤務は、課税年度を異にするものと認められる。

また、人事院規則九―三〇第三二条のいわゆる併給禁止規定は、重複支給される可能性のある手当が存在することを前提にして、それらが重複して支給される場合に、一方の手当のみを支給する措置等をとっているのであるから、複数の手当の支給が併給に当たるかどうかは支給手続上の問題として捉えるべきであり、税務手当及び滞納徴収手当が規定されていること自体には問題がないものというべきである。

そうすると、滞納徴収手当の規定の内容が著しく合理性を欠き、そのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存するものとはいえない。

(三)  保険手当

保険手当の支給対象となる勤務は国民健康保険及び国民年金の保険料徴収に関する事務であるが、国民健康保険の保険料については地方税法の規定が準用されること(国民健康保険法七八条)、国民年金の保険料は国税徴収の例により徴収すると規定されていること(国民年金法九五条)、保険料を算定するための所得の調査等は徴収事務において欠くことのできない関連事務であると認められることなどに鑑みれば、税務手当と同様の専門性や困難性による事務の特殊性が認められるというべきである。

また、保険料の徴収事務及びそれに密接に関連する事務は継続的に行われるものと解されることから、保険手当を月額支給と規定することも事務の性質や実情に照らして相当であると認められる。

そうすると、保険手当の規定の内容が著しく合理性を欠き、そのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存するものとは解し得ない。

(四)  技術手当

技術手当の支給対象として、土木建築技術職員、医療技術職員、乗用車の運転に従事する職員及びその他技能職員が規定されているが、これらはいずれも職務の専門性や危険性に着目して規定されたものであり、美原町一般職の給与に関する条例は、一般職給料表、教育職給料表の二種類の給料表のみを定めているため(三条)、右のような職員の職務の専門性、特殊性を考慮して特殊勤務手当の対象とすることは、法二〇四条二項の趣旨に合致し、合理性を有するというべきである。公用車運転技能職員及びその他技能職員が一般職給料表の適用を受けるからといって、これによりすでに職務の特殊性が考慮されているとはいえない。

そうすると、技術手当の規定の内容が著しく合理性を欠き、そのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存するものとは解し得ない。

(五)  用地取得業務従事手当

用地取得業務従事手当は直接所有権者等との交渉業務に従事する職員に対して支給されるが、右業務が継続的に行われることを前提として同手当を月額支給とすることは、直ちに著しく合理性を欠くものとはいえない。

4  また、前記のとおり本件条例の改正により、税務手当、保険手当、技術手当及び清掃現場業務手当が廃止され、用地取得業務従事手当が日額支給に改められているからといって、廃止、改正の対象となった本件条例の内容が合理性を欠くものと断ずることはできない。

5  したがって、本件条例の内容が著しく合理性を欠き、そのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があるとは認めることができず、この点に関する原告の主張は理由がない。

二  条例に基づかずにされたことによる財務会計上の行為の違法性

原告は、本件条例が違法でないとしても、本件条例に基づかない支出がされたとして、財務会計上の行為の違法性を主張しているので、この点につき判断する。

1  税務手当について

税務手当〈1〉の支給対象となる勤務は、町税の徴収事務及び徴収・賦課に関する調査を主とする事務をいうと解されるところ、乙一八及び弁論の全趣旨によれば、税務手当〈1〉の支給を受けた職員は、別表2の1に記載されている税務課に所属する職員1ないし21であり、その全員が、継続的に町税の徴収等に関する窓口処理業務を行っていたことが認められる。

この町税の徴収等に関する窓口処理業務は、町税の徴収事務それ自体及びそれに密接に開連した事務であると認められるから、税務手当〈1〉を受給した職員全員が税務手当〈1〉の支給の対象となる勤務を行っていたものというべきである。

そうすると、税務手当〈1〉の支出は条例に基づいてされており、財務会計上の行為に違法性はなく、この点に関する原告の主張は理由がない。

2  滞納徴収手当について

(一)  〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。

(1) 滞納徴収事務は、納付義務を果たさない滞納者から滞納繰越分を徴収する事務であるが、その前提として、電話や訪問による納付相談、納付に向けた説得や交渉等の継続的な事務が必要とされる性質のものである。

(2) 平成一〇年度においては、国民健康保険料及び下水道受益者負担金の滞納徴収事務に関しては滞納徴収手当が支給されず、町税の滞納徴収事務に従事した職員に対してのみ滞納徴収手当が支給された。

(3) 別表2の2に記載された税務課職員17は美原町外に在住している者の、同18及び19は南余部地区等の住民の、同20及び21は北余部地区等の住民の滞納処分に関する業務を行っており、同16はこれらの業務の総括的業務を行っていた。

(4) 平成一〇年度の滞納徴収手当は、職員16ないし21の六名につき、それぞれ税務課全体の滞納繰越徴収額の総額の六分の一の額を当該職員に係る滞納繰越分の徴収額とし、これに一〇〇〇分の三を乗じて得た額を算出し、その金額が六〇〇〇円に満たない月にはその金額を、六〇〇〇円を越える場合は六〇〇〇円を支給する方法が採られており、各職員の滞納徴収手当の金額は同額であった。

(5) 滞納徴収手当の支給を受けた職員は、職員16ないし21の六名であり、その全員が税務手当〈1〉の支給を受けた。すなわち、職員16ないし21は、それぞれ滞納徴収手当として平成一〇年四月に五二八九円、同年五月ないし平成一一年三月までは一か月六〇〇〇円の合計七万一二八九円を、税務手当〈1〉として合計四万八〇〇〇円の支給を受けた。

(二)  右(一)の認定のとおり、滞納徴収事務が納付相談、説得、交渉等の継続的な事務を必要とする性質のものであること、職員16ないし21の中でも担当地区によって滞納徴収事務の分配がされていたこと、及び滞納徴収手当計算書(〔証拠略〕)が職員ごとの滞納繰越徴収額を記入する欄を設け、それに一〇〇〇分の三を乗じて職員ごとの手当の金額を算出する書式を採用していることを併せて鑑みれば、本件条例の滞納徴収手当の規定は、個々の職員ごとの滞納繰越徴収額の実績を把握し、これを基に手当の金額を算出することを予定しているものというべきである。

そうすると、右(一)の認定のとおり、平成一〇年度において税務課全体の滞納繰越徴収額の六分の一を各職員の徴収額として、それを基に手当の金額を算出して支給したことは、本件条例に基づかない支出であり、法二〇四条の二に違反するものというべきである。

被告らは、事案ごとに特定の担当者を決めるのではなく、職員16ないし21が、滞納徴収事務の一部を分担して行うことにより、すべての事案に携わっていたと主張している。しかし、右の六名の職員がすべての事案に携わっていた事実は、本件全証拠によってもこれを認めるに足りず、かえって、先に認定のとおり、地区ごとに担当者が決められていた事実が認められるのであるから、被告らの主張には理由がないものというべきである。

(三)  したがって、職員16ないし21に対する滞納徴収手当の支給は法二四二条一項、二四二条の二第一項にいう違法な公金の支出にあたるというべきである。そして、被告らが職員ごとの滞納繰越徴収額を明らかにして条例に従った滞納徴収手当の額を主張立証しない以上、職員16ないし21が平成一〇年度に滞納徴収手当として支給を受けた金額の合計額に相当する四二万七七三四円が美原町の受けた損害であるといわざるをえない。

3  保険手当について

〔証拠略〕によれば、保険手当の支給を受けた保険課の職員の職務内容は、主に、国民健康保険料及び国民年金保険料の徴収・納付交渉業務・納付相談窓口業務(以上は別表2の3記載の職員8、76ないし80、82、89が担当した。)、国民年金保険料の未納通知以後処理業務・電話勧奨・個別訪問業務(以上は職員83ないし88が担当した。)であると認められる。

右の業務は、いずれも国民健康保険及び国民年金の保険料の徴収業務自体又は徴収業務に欠くことのできない密接に関連した業務であり、保険手当の支給対象となる業務であると解することができる。

そうすると、保険手当の支出に関する財務会計上の行為に違法な点はなく、原告の主張には理由がない。

4  清掃現場業務手当について

(一)  〔証拠略〕によると、次の事実が認められる。

(1) 美原町においては、昭和三七年から、家庭系一般廃棄物の収集を、美原町と収集業務委託契約を締結した業者が行っていた。

(2) そして、昭和五六年八月から、家庭系一般廃棄物につき、古紙等の資源ごみ、空き缶・空き瓶、生ごみ、粗大ごみなどを分別して収集する、いわゆる分別収集が開始された。

(3) 清掃課の職員は、分別収集の開始された当初は、分別収集の周知徹底を図る必要があったため、実際にごみ集積場に赴き、住民の前で分別作業を行うなどの作業を行っていたが、次第に右のような作業を行う機会は減少し、平成一〇年度には、ごみ集積場におけるごみの分別作業自体は行わなかった。

(4) 平成一〇年度に清掃現場業務手当の支給を受けた職員は、別表2の4記載の職員90ないし97であり、右職員らは、〈1〉 臨時の依頼により収集したごみの中に産業廃棄物等が混入していないか、正しく分別されているかを確認し、収集料金を算定するためにごみの収集量を確認する、いわゆるごみ査定と呼ばれる作業(以下「ごみ査定」という。)、〈2〉 収集委託業者による収集の後に残ったごみや、集団清掃により排出されたごみを収集し、処理する作業(以下「ごみ処理」という。)、〈3〉 住民からの苦情により不法に投棄されたごみを収集する作業(以下「苦情ごみ処理」という。)を行ったことがあった。

(二)  右(一)の認定事実によれば、平成一〇年度における清掃課の職員らの作業は、ごみ査定、ごみ処理及び苦情ごみ処理に限定されており、右作業はいずれも、臨時に発生したごみを処理する作業又はそれに密接に関連する作業であり、分別収集作業それ自体ということはできない。

そうすると、右職員らは、手当の支給対象となる勤務を行っていたとは認められず、職員90ないし97に対して合計四二万円の清掃現場業務手当を支給したことは、条例に基づかない支出であり、法二〇四条の二に違反するというほかはない。したがって、右職員らに対する清掃現場業務手当の支給は法二四二条一項、二四二条の二第一項にいう違法な公金の支出にあたるというべきである。

5  用地取得業務従事手当について

〔証拠略〕によれば、用地取得業務従事手当の支給を受けた職員は別表2の5記載の職員15及び98ないし100であり、右職員らが平成一〇年度に堺羽曳野線用地の買収に関連した業務を行っていた事実は認められる。

しかし、用地取得業務従事手当は、現地において直接所有権者等と交渉する業務を行った者に対して支給されるものであるところ、右職員らが直接所有権者等と交渉する業務を行ったことを認めるに足りる証拠はない。

したがって、右職員らは、手当の支給対象業務を行っていたとは認められず、職員15及び98ないし100に対して合計一四万四〇〇〇円の用地取得業務従事手当を支給したことは、条例に基づかない支出であり、法二〇四条の二に違反するというほかはない。したがって、右職員らに対する清掃現場業務手当の支給は法二四二条一項、二四二条の二第一項にいう違法な公金の支出にあたるというべきである。

三  被告らの責任

1  被告安形

法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」には、地方公共団体の内部において訓令等の事務処理上の明確な定めにより、当該財務会計上の行為につき法令上権限を有する者からあらかじめ専決することを任され、右権限行使についての意思決定を行うとされている者も含まれると解するのが相当であるから(最高裁平成二年(行ツ)第一三八号同三年一二月二〇日第二小法廷判決・民集四五巻九号一五〇三貢)、本件特殊勤務手当の支出負担行為、支出命令についての専決権者である被告安形は、「当該職員」に該当する。

もっとも、専決権者である同被告は、特殊勤務手当に係る支出負担行為及び支出命令に関する事務を「直接補助する職員で普通地方公共団体の規則で指定したもの」(法二四三条の二第一項)に該当するから、故意又は重過失により法令に違反して支出負担行為等を行った場合に美原町に対して損害賠償の責任を負うのであり、賠償責任に関する民法の規定は適用されない(同条九項)。以上は、住民訴訟により損害賠償責任を問う場合でも同様であり、したがって、同被告は、前記の条例に基づかない違法な特殊勤務手当に係る支出負担行為及び支出命令を専決により行ったことにつき、故意又は重過失がある場合に限り責任を負うと解される。しかし、前記認定事実によっても、違法な特殊勤務手当の支出につき同被告に故意又は重過失があったと認めることはできず、他に故意又は重過失の存在を認めるに足りる証拠はない。

2  被告高岡

本件特殊勤務手当の支出負担行為及び支出命令はいずれも被告安形の専決により行われているので、被告高岡の責任の有無について検討する。

被告高岡は、町長として、支出負担行為及び支出命令を行う権限を法令上本来的に有する者であるが、その権限に属する一定の範囲の財務会計上の行為を補助職員に専決させることとしている場合であっても、地方自治法上右財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている以上、法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当し、右専決を任された補助職員が町長の権限に属する当該財務会計上の行為を専決により処理した場合は、町長は、右補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により右職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り、普通地方公共団体に対し、右補助職員がした財務会計上の違法行為により当該普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負うものと解するのが相当である(最高裁平成二年(行ツ)第一三七号同三年一二月二〇日第二小法廷判決・民集四五巻九号一四五五頁)。

美原町においては、平成九年七月から、「美原町みなおしプラン」(〔証拠略〕)として、給与などの適正化を検討課題として掲げ、特殊勤務手当については不必要な特殊勤務手当の廃止も含めて個々に検討する方針を打ち出していたのであるから、町長である被告高岡としては、平成一〇年当時は、本件条例の内容や各特殊勤務手当の支給の実情について当然十分に認識していたものと推認され、したがって、前記のとおり条例に基づかない支出負担行為及び支出命令については、これを是正するように求めるなどの指揮監督上の義務が認められるところ、被告高岡が何らかの是正措置を採ったことは認めることができないのであるから、少なくとも過失により、右指揮監督上の義務に違反し、被告安形の支出負担行為及び支出命令を阻止しなかったものとして、その責任を負うものというべきである。

四  損害

滞納徴収手当四二万七七三四円、清掃現場業務手当四二万円、用地取得業務従事手当一四万四〇〇〇円の合計九九万一七三四円の支出は違法であるから、美原町は右の公金支出額九九万一七三四円の損害を被ったというべきである。

そうすると、被告高岡は、右公金の支出により美原町の被った右損害を賠償すべき義務があるといわなければならない。

第四 結論

以上によれば、原告の請求は、被告高岡に対し、九九万一七三四円及びこれに対する本件各支出が完了した日以後の日である平成一一年四月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから右限度で認容し、同被告に対するその余の請求及び被告安形に対する請求はいずれも理由がないから棄却し、仮執行宣言については、その必要があるとは認められないのでこれを付さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下郁夫 裁判官 青木亮 山田真依子)

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